「先生、昨日ホワイトニングをしてから、水を飲むだけでキーンとするんです。これ、やめたほうがいいんでしょうか」

先週も、50代の患者さんから同じご相談をいただきました。
その方は娘さんの結婚式を三か月後に控えていて、どうしても続けたいというお気持ちがありました。
けれど痛みが出た以上、無理に続けていいものか判断がつかない。
その迷いは、とてもよくわかります。

はじめまして、歯科医師の佐藤佳織と申します。
横浜で歯科医院を開き、二十年ほど患者さんのお口を診てきました。
専門は予防歯科と歯周病で、40代以上の方の相談を受けることが多い立場です。

この記事では、ホワイトニングで歯がしみる仕組みを、できるだけかみ砕いてご説明します。
そのうえで、様子を見ながら続けてよい痛みと、いったん手を止めて歯科医院に相談してほしい痛みの境目をお伝えします。
判断の物差しを持っておくと、不安はずいぶん軽くなります。

ホワイトニングで歯がしみるのは、薬剤が歯の内側まで届いているからです

まず知っておいていただきたいのは、しみる感覚そのものは「異常事態」とは限らない、ということです。
薬剤がきちんと働いている過程で起きる反応でもあります。

過酸化水素が色素を分解するとき、歯の表面はいつもと違う状態になります

ホワイトニングの薬剤には、過酸化水素や過酸化尿素が使われます。
これらが分解されるときに生まれる活性酸素が、歯の内部にたまった色素の分子を細かく切り分けていきます。
色が抜けて見えるのは、この分解が進んだ結果です。

このとき、歯の表面をおおっている「ペリクル」という唾液由来の薄い膜が一時的に失われます。
エナメル質の微細な構造もわずかに変化し、薬剤が奥へと入り込みやすくなります。
つまり漂白の効果と、しみやすさは、同じ入り口から生まれているわけです。

象牙細管の中の液体が動くと、神経がそれを痛みとして受け取ります

エナメル質の内側にある象牙質には、象牙細管という無数の細い管が通っています。
管の中は組織液で満たされていて、その先には歯の神経がひかえています。

1963年に提唱された動水力学説では、この管の中の液体が刺激によって移動すると、神経の末端が興奮して痛みが生じると説明されています。
冷たい水でキーンとくるのも、ホワイトニング後にしみるのも、根っこにあるのは同じ現象です。
神奈川県歯科医師会の知覚過敏への歯科医師の対応でも、歯周病や酸蝕症と並んでホワイトニングが知覚過敏の原因のひとつに挙げられています。

歯の神経にも、軽い炎症が起きています

アメリカ歯科医師会(ADA)は、ホワイトニング後の知覚過敏について、過酸化物にさらされたことによる歯髄の炎症が原因と考えられると説明しています。
炎症といっても、多くは一時的なものです。
薬剤の作用が終われば、歯髄は自分の力で落ち着きを取り戻していきます。

しみやすい方には、いくつかの共通点があります

同じ薬剤を同じ時間使っても、まったく平気な方と、初回から強くしみる方がいます。
その差は体質だけの話ではなく、多くの場合は歯の状態に理由があります。

エナメル質が薄くなっていると、刺激が奥まで届きます

エナメル質は象牙質と神経を守る鎧のようなものですが、年齢とともに少しずつすり減ります。
就寝中の食いしばりや歯ぎしり、力まかせのブラッシング、酸性の強い飲食物も、鎧を削る側に働きます。
40代を過ぎた方の歯を診ていると、噛む面や歯の付け根が透けて見えることが珍しくありません。

歯ぐきが下がっている部分は、そもそも守りが薄い場所です

歯周病や加齢で歯ぐきが下がると、本来は隠れているはずの歯の根が露出します。
根の表面にはエナメル質がなく、象牙質が直接お口の中にさらされています。
ここに薬剤が触れれば、しみるのはむしろ自然な反応です。

治療していない虫歯や、詰め物のすき間があると話が変わります

虫歯や、古い詰め物と歯のあいだにできたわずかな段差、エナメル質に入った細かな亀裂。
こうした「抜け道」があると、薬剤は象牙細管をたどるどころか、まっすぐ神経の近くまで届いてしまいます。
このタイプの痛みは、様子を見て消えるものではありません。

しみやすさに関わる要因を整理すると、次のようになります。

要因何が起きているか事前にできること
エナメル質のすり減り刺激が象牙質に届きやすい食いしばりの相談、ブラッシング圧の見直し
歯ぐきの退縮根の象牙質が露出している歯周病の治療、露出部の保護処置
未治療の虫歯薬剤が神経の近くまで入るホワイトニング前に治療を終える
詰め物のすき間・亀裂同上。痛みが強く出やすい歯科医院で状態を確認してもらう
もともとの知覚過敏反応が増幅されやすい知覚過敏の処置を先に済ませる

オフィスとホームでは、しみ方の出方が違います

「友人はホームホワイトニングで平気だったのに、自分は医院での施術でとても痛かった」という声をよく聞きます。
これは体質の差というより、薬剤の濃度と時間の設計が違うためです。

濃度が高いほど、短時間で強い反応が出ます

歯科医院で行うオフィスホワイトニングでは、過酸化水素が最大で35%ほどの薬剤を使います。
一方、日本の薬機法で認められているホームホワイトニング用のジェルは、過酸化尿素が10%以下。
これは過酸化水素に換算すると3〜4%程度にあたります。

濃度が高ければ効果は早く出ますが、そのぶん歯髄への刺激も大きくなります。
2018年のコクランレビューでも、知覚過敏と口の中の刺激感が最も多い有害事象であり、有効成分の濃度が高いほど起こりやすいと報告されています。
ただしその症状は軽度で一過性のものが多い、とも結論づけられています。

光の照射による熱も、刺激の一因になります

オフィスホワイトニングでは薬剤に光を当てて反応を促すことがあります。
このとき歯髄の温度がわずかに上がることが、しみやすさにつながる場合があります。
照射時間を短く区切る、光を使わない薬剤を選ぶといった調整が可能ですので、痛みが不安な方は事前にご相談ください。

ちなみに、オフィスホワイトニング中に麻酔を使わないのには理由があります。
薬剤が歯ぐきに漏れたときのヒリつきを、患者さん自身が感じ取れるようにしておくためです。
「ちょっとしみます」というひと言が、トラブルを防ぐ合図になります。

続けてよい痛みと、いったん止めるべき痛み

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
痛みには「時間とともに引いていくもの」と「放っておくと悪化するもの」があり、見分ける手がかりははっきりしています。

様子を見てよいのは、刺激があったときだけ短く走る痛みです

冷たい水を口に含んだ瞬間にキーンときても数秒で消え、翌日には昨日より弱くなっている。
しかも特定の一本ではなく、前歯のあたりが全体的に敏感になっている。
こうした痛みは、薬剤への一時的な反応であることがほとんどです。
ADAによれば、トレーやストリップを使う方法では開始から2〜3日で症状が出て、終了後4日目までにはおさまることが多いとされています。
知覚過敏用の歯みがき剤を使いながら、次の施術まで少し間隔をあければ、多くの場合は落ち着いていきます。

手を止めてほしいのは、刺激がないのに痛む場合です

気をつけていただきたいのは、次のような痛みです。

  • 何もしていないのに脈打つようにズキズキする
  • 温かいお茶やお風呂上がりに痛みが強くなる
  • 夜、横になってから痛みだして眠れない
  • 刺激がなくなった後も痛みがしばらく続く

これらは知覚過敏の範囲を超えている可能性があります。
済生会の歯髄炎の解説にもあるとおり、自発痛や温熱痛、夜間の痛みは、歯の神経が元に戻りにくい状態に入っているときのサインです。
この段階で漂白を続けても、いいことは何ひとつありません。

一本だけ痛むときは、その歯に理由があります

複数の歯に同じ薬剤を使っているのに、一本だけが飛び抜けて痛む。
これは薬剤そのものよりも、その歯に虫歯や亀裂、詰め物のすき間がある可能性を疑うべき状況です。
私の医院でも、ホームホワイトニングの相談から歯の破折が見つかったケースが何度かありました。

歯ぐきが白くなった、ヒリヒリするとき

薬剤が歯ぐきに触れると、その部分が白く変色したり、ひりつきを感じたりすることがあります。
多くは数時間から数日で元の色に戻りますが、その日はいったん中止してください。
トレーの形が合っていないことが原因の場合もありますので、次回までに歯科医院で調整してもらいましょう。

症状目安対応
冷たいもので数秒しみる続けてよい範囲間隔をあけ、知覚過敏用歯みがき剤を使う
24〜48時間で弱まっていく続けてよい範囲経過を見ながら次回へ
何もしなくてもズキズキする中止して受診歯髄の炎症を疑う
温かいもので痛む・夜間に痛む中止して受診早めの診断が必要
一本だけ強く痛む中止して受診虫歯・亀裂・詰め物を確認
鎮痛薬が効かない、日ごとに悪化中止して受診自己判断で続けない

しみを軽くするために、始める前からできること

痛みが出てから慌てるより、始める前に手を打っておくほうがずっと楽です。
実際、事前の準備をした方は、途中で挫折することが少ないと感じています。

知覚過敏用の歯みがき剤は、二週間前から使い始める

硝酸カリウムやフッ化物が配合された歯みがき剤は、神経の感じ方をやわらげたり、象牙細管をふさいだりする働きがあります。
ADAでも、5%硝酸カリウムと2%フッ化ナトリウムを含むジェルを漂白前に使う方法が紹介されています。
効果が出るまでに時間がかかりますので、思い立った日ではなく、二週間ほど前から始めておくのがおすすめです。

装着時間と間隔は、遠慮なく調整してかまいません

ホームホワイトニングで指定された時間をきっちり守ろうとして、痛みを我慢する方がいらっしゃいます。
けれど時間を短くしたり、毎日ではなく一日おきにしたりしても、白さは少しゆっくり進むだけです。
急いで痛い思いをするより、三か月かけて穏やかに進めたほうが、結果的には長続きします。

歯科医院に頼れる処置がいくつもあります

医院でできることは、思われている以上にあります。

  • フッ化物やコーティング材で象牙細管をふさぐ
  • 硝酸カリウムなどの薬剤で痛みの閾値を上げる
  • 薬剤の濃度や照射時間を下げて設計し直す
  • 露出した根の部分だけを保護材でおおう

始める前に、お口の中を一度整えておく

虫歯の治療、歯周病のケア、古い詰め物の点検。
この三つを済ませてから始めるだけで、途中でつまずく確率はぐっと下がります。
なお、過酸化物を使う漂白は医療行為にあたり、日本歯科審美学会も、歯科医師または歯科衛生士の資格がない人による施術は違法だと明示しています。
セルフの店舗と歯科医院では、そもそも扱える薬剤も、痛みが出たときの対応力も違います。

まとめ

ホワイトニングでしみるのは、薬剤が象牙細管を通って歯の内側まで届いているからです。
冷たいものでキーンとくる程度で、24〜48時間のうちに弱まっていくなら、間隔をあけながら続けて差し支えありません。
一方、何もしないのにズキズキする、温かいもので痛む、夜に痛みだす、一本だけ強く痛む。
このいずれかに当てはまったら、その日はやめて歯科医院に連絡してください。

白い歯は、鏡の前の気分を確かに変えてくれます。
それでも私は、歯を「老後の資産」だと考えています。
数か月先の白さのために、この先何十年も使う神経を痛めてしまっては本末転倒です。

痛みを我慢することが、頑張っている証にはなりません。
迷ったときは、遠慮なくかかりつけの歯科医師に声をかけてください。
その一本の電話が、いちばん確実な近道になります。