「歯みがきのときに少し血が出るけれど、痛くないから大丈夫だと思って」。
40代の患者さんから、よく聞く言葉です。
横浜で歯科医院を開いている、歯科医師の佐藤佳織です。

歯周病は痛みが出にくく、気づいたときには歯を支える骨がかなり減っていることも珍しくありません。
この記事では、進行段階ごとのサインと40代から気にしてほしい変化、手遅れにしないための受診の目安をお伝えします。

40代は歯周病が静かに進みはじめる年代

4mm以上の歯周ポケットは40代後半で4割を超える

歯と歯ぐきの境目には、もともと浅い溝があります。
健康な状態ではこの溝は3mm以下ですが、歯周病が進むと深くなり、「歯周ポケット」と呼ばれるすき間に変わります。
4mm以上のポケットがあれば、歯周病がやや進んだ状態です。

厚生労働省の令和4年歯科疾患実態調査を見ると、4mm以上の歯周ポケットがある人の割合は、40代前半から後半にかけて大きく伸びています。

年齢4mm以上のポケットがある人そのうち6mm以上
35〜39歳33.7%2.4%
40〜44歳35.3%4.3%
45〜49歳43.4%6.9%
50〜54歳43.9%6.5%
55〜59歳49.6%10.9%
60〜64歳45.8%15.3%

私が診療の立場から気にしているのは、右端の列です。
6mm以上のポケットは、歯周病がかなり進んだ状態を示します。
40代前半では20人に1人もいなかったのが、50代後半では約10人に1人、60代前半では6〜7人に1人ほどに増えていきます。
40代のうちに見つけておくかどうかで、その後の15年が変わるというのが、診療を続けてきた実感です。

痛みがないため、数字ほど自覚されていない

同じ調査で、45〜49歳のうち「歯をみがくと血が出る」と答えた人は10.3%、「歯ぐきが腫れている」と答えた人は6.3%でした。
ポケットがある人は4割を超えているのに、歯ぐきの異変を感じている人はその数分の1にとどまっています。

歯周病は、かなり進むまで強い痛みが出ません。
「どこも痛くないのに、どうして?」と驚かれる方は、私の医院でも毎週のようにいらっしゃいます。
痛みを受診のきっかけにしていると、どうしても見つかるのが遅れてしまうのです。

歯を失う原因でいちばん多いのが歯周病

8020推進財団が全国の歯科医院を対象に行った第2回 永久歯の抜歯原因調査(2018年)では、抜歯の原因で最も多かったのが歯周病の37.1%で、むし歯の29.2%を上回りました。
歯周病による抜歯の割合は、35歳を過ぎたころから年齢とともに高くなっています。
40代は、歯のトラブルの中心がむし歯から歯周病へ移っていく時期にあたります。

進行段階ごとに変わるサイン

日本歯周病学会が監修するペリオブックでは、歯周病の進み方を4つの段階に分けて説明しています。
段階によって、ご自身で気づけるサインは変わってきます。

段階歯ぐき・骨の状態気づきやすいサイン
歯肉炎炎症は歯ぐきだけで、骨は壊れていない歯みがきで出血する、歯ぐきが赤く腫れる
軽度歯周炎ポケットが4mm程度になり、骨が溶けはじめる出血はあるが、痛みはほとんどない
中等度歯周炎骨の吸収が進み、歯ぐきが下がる口臭、朝のネバつき、歯の揺れや違和感
重度歯周炎骨の大部分が失われる膿が出る、強い口臭、大きな揺れ、歯並びの変化

歯肉炎:出血は「まだ戻れる」サイン

歯みがきで血が出るのは、歯ぐきに炎症が起きている証拠です。
この段階なら骨はまだ壊れていないので、歯垢をきちんと落とせば、歯ぐきは健康な状態に戻ります。

血を見ると怖くなって、その部分を避けて磨く方がいらっしゃいます。
けれど、それでは歯垢が残り、炎症はかえって長引きます。
やわらかめの歯ブラシで、出血するところほど丁寧に磨いてください。

軽度〜中等度歯周炎:口臭と朝のネバつきが増えてくる

骨が溶けはじめると、完全に元どおりにするのは難しくなります。
それでも軽度のうちなら、歯石の除去と毎日のケアで進行を食い止められることが多い段階です。
中等度まで進むと、歯石を取るだけでは改善せず、手術が必要になる場合も出てきます。

この時期に増えるのが、朝起きたときの口のネバつきと口臭です。
においにはご本人が慣れてしまうので、ご家族のひと言が受診のきっかけになることもよくあります。

重度歯周炎:膿や大きな揺れが出たら急いで受診を

歯ぐきを押すと膿が出る、指で触ると歯がはっきり動くという状態は、歯を支える骨の多くが失われているサインです。
ここまで進むと、治療をしても残すのが難しい歯が出てきます。
一般に「手遅れ」と言われるのは、多くの場合この段階です。

手遅れの手前で見逃したくない、40代からの変化

出血や口臭は分かりやすいサインですが、中等度のあたりで起きる変化には、歯周病と結びつけにくいものが多くあります。
診察室で「そういえば」と言われることの多い変化を挙げてみます。

歯が長くなった、歯と歯のすき間が広がった

歯を支える骨が減ると、それに合わせて歯ぐきも下がっていきます。
すると歯の根元が見えて歯が長くなったように感じたり、歯と歯の間に黒いすき間ができたりします。
「年齢のせい」と片づけられがちな変化ですが、背景に歯周病が隠れていることは少なくありません。

食べ物が挟まりやすくなった、前歯が開いてきた

支える力が弱まった歯は、少しずつ位置が動きます。
以前はなかった場所に食べ物が挟まるようになった、上の前歯が扇のように開いてきた、というのも歯周病でよく見られる変化です。
歯の位置がずれると噛み合わせも変わり、特定の歯に負担が集中して、さらに進行を早める悪循環に入ってしまいます。

硬いものを噛むと歯が浮いたように感じる

おせんべいやナッツを噛んだとき、特定の歯だけに響く、浮いたような感じがする、という訴えもよく伺います。
日本歯科医師会のテーマパーク8020でも、中等度から重度の歯周炎の症状として、歯の揺れや噛んだときの痛み、ポケットからの膿が挙げられています。

鏡とご自身の感覚で確かめられる項目を、進行の早い順にまとめました。

  • 歯みがきのたびに血が出る
  • 朝起きたとき、口の中がネバネバする
  • 家族に口臭を指摘されたことがある
  • 歯が長くなったように見える
  • 歯と歯の間に食べ物が挟まりやすくなった
  • 前歯のすき間が広がってきた
  • 硬いものを噛むと、歯が浮いたように感じる
  • 指で触ると動く歯がある

上の3つにとどまるなら、歯肉炎から軽度の段階であることが多く、立て直しやすい時期です。
4つ目から下にひとつでも当てはまるなら、次の休みを待たずに予約を入れてください。

40代以降に歯周病を進めやすくするもの

糖尿病とたばこ

先ほどの8020推進財団の調査では、65歳以上で糖尿病がある人の場合、歯周病が原因で抜歯に至った割合が55.0%にのぼりました。
40〜69歳でみると、歯周病による抜歯は喫煙者で48.0%、喫煙しない人で38.7%と、喫煙者のほうが1割ほど高くなっています。

健康診断で血糖値を指摘された方や、たばこを吸う方は、歯周病が速く進む前提で検診の間隔を考えてください。
喫煙には症状を気づきにくくする面もあるため、出血がないから安心とは言えません。

更年期と、歯ぎしり・食いしばり

女性の場合、閉経前後は歯ぐきに炎症が起こりやすくなることが、日本歯周病学会の資料でも説明されています。
私自身も50代に入って、歯ぐきの様子がそれまでと違うと感じた時期がありました。

仕事や介護で気の張る日が続く40代・50代は、夜間の歯ぎしりや日中の食いしばりも増えがちです。
強い力がかかり続けると、歯を支える骨が部分的に減ることがあり、歯周病による骨の減少に追い打ちをかけます。
朝起きたときにあごがだるい方は、一度歯科医院で相談してみてください。

手遅れにしないために、40代から始めたいこと

自治体の歯周病検診と、かかりつけ医での定期健診

多くの市区町村では、健康増進法にもとづく歯周疾患検診を行っています。
対象は40歳・50歳・60歳・70歳の節目で、2024年度からは20歳と30歳も加わりました。
自己負担は自治体によって異なり、無料で受けられるところもあるので、お住まいの市区町村のホームページで確かめてみてください。

とはいえ、節目の検診は10年に1度しか回ってきません。
私の医院では40代以降の方に、歯ぐきの状態に応じて3〜6か月ごとの来院をおすすめし、そのたびに歯石を取ってポケットの深さを測っています。

歯ブラシに、歯間ブラシかフロスを足す

歯ブラシだけでは、歯と歯の間の汚れがどうしても残ります。
歯周病はこの歯間部から進みやすいので、夜の歯みがきに歯間ブラシかフロスを1本足してください。
すき間が広がってきた方には歯間ブラシ、すき間の狭い方にはフロスが向いています。
歯間ブラシはサイズが合わないと歯ぐきを傷つけるため、最初に一度、歯科医院で合うものを選んでもらうと安心です。

受診をためらっている方へ

「しばらく行っていないから、怒られそうで」とおっしゃる方がいます。
間が空いたことを責めるつもりは、私にはまったくありません。

歯科医師になったばかりのころ、恩師から「患者さんの人生を診なさい」と言われました。
今の歯ぐきの状態を確かめるのは、20年後も自分の歯で食事を楽しんでいただくためです。
久しぶりの受診でも、気負わずに来ていただければと思います。

まとめ

歯周病は痛みが出にくく、40代後半には4mm以上の歯周ポケットがある人が4割を超えます。
歯みがきでの出血や口臭、朝のネバつきは早い段階のサインで、ここで気づけば立て直しやすい時期です。

歯が長く見える、食べ物が挟まる、前歯が開く、噛むと浮いた感じがする、歯が動くといった変化は、骨がかなり減っているサインかもしれません。
糖尿病やたばこ、更年期、食いしばりがある方は、進み方が速いつもりで備えてください。

私は、歯は「老後の資産」だと考えています。
40代のうちに気づけるかどうかで、60代、70代の食卓は大きく変わります。
今夜の歯みがきのあと、鏡で歯ぐきの色と歯の長さを確かめてみてください。
気になることがひとつでもあれば、それが受診のタイミングです。