こんにちは。
横浜市で歯科クリニックを開業しております、歯科医師の佐藤佳織です。
40代、50代を迎えると、ふとした瞬間にお口の変化を感じることが増えませんか?
「最近、硬いおせんべいを避けるようになった」
「りんごを丸かじりすると、歯ぐきが気になる…」
私のクリニックに来られる患者さんからも、こうしたお悩みをよく伺います。
多くの方が「歯を強くするにはカルシウム」と考えていらっしゃいますが、実はそれだけでは片手落ちなのです。
この記事では、歯そのものだけでなく、歯を支える「土台」である歯ぐきや骨、つまり歯周組織までトータルで元気にする食事法について、長年の臨床経験を交えながら詳しくお話しします。
この記事を読み終える頃には、毎日の食事があなたの歯の未来を育てる大切な時間なのだと、きっと実感していただけるはずです。
目次
なぜ「カルシウムだけ」では足りないのか?歯を支える土台の重要性
歯の構造をおさらい:家で例えると?
まず、お口の中を一つの「家」だとイメージしてみてください。
歯そのもの、つまりエナメル質や象牙質は、雨風から家の中を守る「建物」の部分です。
そして、その建物をしっかりと支えているのが、歯ぐきや、歯が埋まっている顎の骨(歯槽骨)といった「土地(地盤)」、すなわち歯周組織です。
どれだけ立派で頑丈な建物を建てても、それを支える土地が軟弱で緩んでいたら、家は傾き、やがては倒れてしまいますよね。
お口の中でも、全く同じことが起こるのです。
カルシウムの役割と限界
もちろん、カルシウムが重要であることに変わりはありません。
カルシウムは、歯や骨を構成する主成分であり、建物を頑丈にするためのセメントのような役割を果たしています。
特に、食事によって酸性に傾いたお口の中を中和し、溶け出した歯の表面を修復する「再石灰化」という働きに不可欠です。
しかし、カルシウムで強化できるのは、あくまで「建物」の部分。
「土地」である歯周組織の健康を保つことはできないのです。
本当に怖いのは「土台」の崩れ:歯周病のリスク
実は、40歳以上の人が歯を失う原因の第1位は、虫歯ではなく「歯周病」です。
これは、歯周病菌によって歯を支える土地、つまり歯ぐきや歯槽骨が静かに破壊されていく病気です。
せっかく虫歯のない健康な歯(建物)を持っていても、その土台が崩れてしまっては、歯はグラグラと揺れ始め、最終的には抜け落ちてしまいます。
だからこそ、カルシウムで歯をケアするのと同じくらい、いや、40代以降はそれ以上に、歯周組織をケアする栄養素を意識的に摂ることが、あなたの歯の寿命を延ばすための鍵となるのです。
歯と歯周組織を育てる!本当に摂るべき5つの栄養素
では、歯を支える土台まで含めてトータルで強くするには、具体的にどんな栄養素が必要なのでしょうか。
毎日の食事でぜひ意識していただきたい、選りすぐりの栄養素をご紹介します。
ビタミンA:歯のエナメル質と粘膜を保護する
ビタミンAは、歯の表面を覆うエナメル質の形成を助け、強化してくれる栄養素です。
さらに、歯ぐきをはじめとする口内の粘膜を健康に保つ働きもあります。
お口の潤いを保ち、細菌の侵入を防ぐバリア機能を高めてくれる、いわば「守りのビタミン」ですね。
- 多く含まれる食品:にんじん、かぼちゃ、ほうれん草などの緑黄色野菜、レバー、うなぎ、卵
ビタミンC:コラーゲン生成を促し、丈夫な歯ぐきを作る
歯ぐきの大部分は、コラーゲンという線維でできています。
ビタミンCは、このコラーゲンの生成に不可欠な栄養素で、ハリのある引き締まった歯ぐきを作るために欠かせません。
不足すると歯ぐきが弱くなり、歯磨きの際に血が出やすくなるなど、歯周病の初期サインが現れることもあります。
- 多く含まれる食品:ピーマン、ブロッコリー、キウイフルーツ、いちご、柑橘類
ビタミンD:カルシウムの吸収を助ける名パートナー
せっかく摂ったカルシウムも、体内に吸収されなければ意味がありません。
ビタミンDは、腸でのカルシウムの吸収率を高めてくれる、まさに「名パートナー」です。
カルシウムとビタミンDは、ぜひセットで摂ることを心がけてください。
また、ビタミンDは日光(紫外線)を浴びることでも体内で作られます。
天気の良い日に少しお散歩するだけでも、歯の健康につながるんですよ。
- 多く含まれる食品:きのこ類(特にきくらげ、干ししいたけ)、魚介類(鮭、さんま、いわし)、卵
カルシウム&リン:歯と骨の基本材料
もちろん、基本となるカルシウムも忘れてはなりません。
リンもまた、カルシウムと共に歯や骨を形成する重要なミネラルです。
この二つはバランスが大切で、「カルシウム:リン=1:1」の比率で摂取するのが理想的と言われています。
現代の食生活では、加工食品や清涼飲料水などからリンを過剰に摂取しがちな傾向があります。
リンが多すぎるとカルシウムの吸収を妨げてしまうため、バランスを意識することが大切です。
- カルシウムを多く含む食品:牛乳、チーズ、ヨーグルト、小魚、豆腐、小松菜
- リンを多く含む食品:肉、魚、卵、乳製品、加工食品
【コラム】フッ素は塗るだけじゃない?食事からの摂取
「フッ素」と聞くと、歯磨き粉や歯科医院での塗布をイメージされる方が多いかもしれません。
実はフッ素も、毎日の食事から摂取できるミネラルの一種です。
フッ素には、歯質そのものを強くして酸に溶けにくくしたり、虫歯菌の活動を抑えたりする効果が期待できます。
- 多く含まれる食品:わかめなどの海藻類、えびなどの魚介類、緑茶
歯科医師が実践する「歯を守る」毎日の食事習慣
栄養素のお話をしてきましたが、「毎日完璧な栄養計算をするのは難しい」と感じますよね。
大丈夫です。
ここでは、私が日々の診療や自分自身の生活で大切にしている、もっと簡単な食事のコツをお伝えします。
「まごわやさしい」を意識した和食中心の食生活
これは日本の伝統的な合言葉で、歯と体に良い食材の頭文字をとったものです。
- ま:豆類(豆腐、納豆など)
- ご:ごま
- わ:わかめ(海藻類)
- や:野菜
- さ:魚
- し:しいたけ(きのこ類)
- い:いも類
意識して見てみると、先ほどご紹介した栄養素がバランス良く含まれているのが分かります。
難しく考えず、毎日の食卓に「今日は『まごわやさしい』が揃っているかな?」とチェックするだけでも、お口の健康は大きく変わってきます。
唾液は天然の洗浄液!「よく噛む」ことを意識する
食事の際に、一口で何回くらい噛んでいますか?
「よく噛む」ことは、お金のかからない最高のオーラルケアです。
よく噛むと、唾液がたくさん分泌されます。
この唾液こそが「天然の洗浄液」であり、食べかすを洗い流し、お口の中の酸性を中和し、歯の再石灰化を促し、細菌の増殖を抑えるなど、素晴らしい働きをしてくれます。
ぜひ、根菜やきのこ、玄米など、少し歯ごたえのある食材を食事に取り入れてみてください。
食べる順番も大切に
もし余裕があれば、食べる順番も意識してみましょう。
食事の最初に、食物繊維が豊富な野菜や海藻のサラダ、おひたしなどを食べる「ベジタブルファースト」を試してみてください。
食物繊維を先に摂ることで、血糖値の急上昇を抑える効果が期待できるほか、自然と噛む回数も増え、唾液の分泌を促すことにもつながります。
これだけは避けたい!歯の健康を損なう食習慣
最後に、歯の健康のために、できるだけ避けていただきたい食習慣についてお話しします。
せっかく良い栄養を摂っても、これらの習慣があると効果が半減してしまいます。
虫歯の直接的な原因「砂糖」
砂糖が虫歯菌の大好物であることは、よく知られていますね。
特に注意したいのが、ジュースやスポーツドリンク、栄養ドリンクなどに含まれる「見えない砂糖」です。
のどが渇いたからと、こうした飲み物を水代わりに飲んでいると、お口の中は常に虫歯菌が喜ぶ環境になってしまいます。
歯を溶かす「静かなる脅威、酸」
虫歯菌が作り出す酸とは別に、食べ物や飲み物そのものに含まれる「酸」が、直接歯のエナメル質を溶かしてしまうことがあります。
これを酸蝕歯(さんしょくし)と呼びます。
健康に良いイメージのある、お酢のドリンク、柑橘類、ドレッシングなども、酸を多く含みます。
炭酸飲料やワインなども同様です。
これらを口にした後は、水でお口をゆすぐだけでも効果がありますので、ぜひ習慣にしてみてください。
口内環境を悪化させる「だらだら食べ」
仕事や家事をしながら、お菓子や甘い飲み物を少しずつ口にする…。
このだらだら食べは、歯にとって最も避けたい習慣の一つです。
食事をすると、お口の中は酸性に傾き、歯が溶けやすい状態になります。
通常は唾液の力で時間をかけて中性に戻るのですが、だらだらと食べ続けていると、お口の中が酸性のままになってしまい、歯が修復される時間がなくなってしまうのです。
食事は時間を決めて、メリハリをつけることが大切です。
まとめ
長い時間お付き合いいただき、ありがとうございました。
最後に、今日お話しした大切なポイントを振り返ってみましょう。
- 歯の健康には、カルシウムだけでなく、歯を支える土台(歯周組織)を元気にするビタミンA、C、Dなどが不可欠です。
- 栄養バランスを整えるには、日本の伝統食「まごわやさしい」が最適です。
- 「よく噛む」ことで分泌される唾液は、お口を守る最高のパートナーです。
- 砂糖や酸の多い飲食物、そして「だらだら食べ」の習慣は、歯の寿命を縮める原因になります。
私の好きな言葉に、「歯は“老後の資産”」というものがあります。
若いうちからの積み立てが大切なのと同じように、歯の健康も、毎日の小さな習慣の積み重ねによって築かれます。
今日から、一口でも多く噛んでみる。
食卓に、一品きのこや海藻を足してみる。
そんな小さな一歩が、10年後、20年後のあなたの笑顔と、美味しく食事を楽しめる豊かな人生につながっています。
この記事が、そのきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。



