こんにちは、歯科医師の佐藤佳織です。

冷たい水を飲むとしみる、歯ブラシが当たると痛む…。そんな「知覚過敏」のサイン、見過ごしていませんか?私のクリニックにも、長年この痛みに悩む患者さんが多くいらっしゃいます。「年だから」「体質だから」とあきらめている方も少なくありませんが、その必要はありません。知覚過敏は、正しい知識と適切なケアで症状を和らげることができるのです。

本記事では、知覚過敏の原因からセルフケア、歯科医院での最新治療まで、長年の臨床経験と最新の研究に基づき、わかりやすく解説します。しみる痛みから解放されるための第一歩を、一緒に踏み出しましょう。

そもそも「知覚過敏」とは?むし歯とは違うの?

知覚過敏の正体:一過性の鋭い痛み

知覚過敏(象牙質知覚過敏症)は、冷たいものや歯ブラシの接触などで感じる、一過性の鋭い痛みが特徴です。むし歯や歯の神経の炎症といった明らかな病気がないにもかかわらず痛みを感じるのがポイントで、刺激がなくなれば数秒から1分以内にはおさまります。

むし歯との見分け方:痛みの特徴でセルフチェック

ご自身での判断は難しいですが、痛みの特徴からある程度推測できます。

知覚過敏むし歯
痛みの種類キーン、ピリッとした鋭い痛みズキズキ、ジンジンと響くような痛み
痛みの続く時間一過性(数秒〜1分以内)持続的(数分以上続くことも)
痛みのきっかけ冷たい・熱いもの、歯ブラシの接触など何もしなくても痛むことがある、甘いもので痛む

表:知覚過敏とむし歯の痛みの違い

これはあくまで目安です。自己判断せず、痛みが気になる場合は必ず歯科医院を受診してください。

なぜ歯はしみる?知覚過敏の主な原因

歯のバリア機能の低下:象牙質の露出がカギ

歯の最も外側は、硬い「エナメル質」で覆われています。その内側にあるのが、神経(歯髄)につながる無数の管「象牙細管」が通る「象牙質」です。通常、象牙質はエナメル質に守られていますが、何らかの原因で象牙質が露出すると、刺激が神経に直接伝わり、痛みを感じるのです。これが知覚過敏のメカニズムです。

歯肉退縮:加齢や歯周病が引き金に

歯の根元はもともと象牙質が露出していますが、健康な状態では歯ぐきに守られています。しかし、加齢や歯周病、強すぎるブラッシングで歯ぐきが下がる(歯肉退縮)と、象牙質がむき出しになり、しみる原因となります。特に40代以降は歯周病リスクが高まるため注意が必要です。

歯の摩耗・破折:日々の習慣が歯を傷つける

歯ぎしりや食いしばりの癖、硬いものを好む習慣は、エナメル質を削り、象牙質を露出させる原因になります。また、転倒などで歯が欠けたり、ひびが入ったりした場合も同様です。

酸蝕歯(さんしょくし):飲食物が歯を溶かす?

飲食物に含まれる「酸」によってエナメル質が溶かされる「酸蝕歯」も、知覚過敏の大きな原因です。炭酸飲料、スポーツドリンク、柑橘系の果物やジュース、お酢を使った料理などをだらだらと摂取する習慣は、お口の中を酸性に保ち、歯を溶かしやすくします。

今日からできる!しみる痛みから解放されるためのセルフケア

毎日の歯みがきを見直そう

良かれと思って行っている歯みがきが、かえって歯や歯ぐきを傷つけ、知覚過敏を悪化させていることが少なくありません。

歯ブラシの選び方と持ち方

「やわらかめ」の毛先の歯ブラシを選び、鉛筆を持つように軽く握る「ペン持ち」で磨きましょう。力が入りすぎず、やさしく磨けます。

やさしく、ていねいに磨く「ペン磨き」のすすめ

歯と歯ぐきの境目に45度の角度で毛先を当て、小刻みに動かします。力を入れず、1本ずつなでるように磨くのがポイントです。痛みが強い部分も、プラークが溜まらないよう、無理のない範囲でやさしく磨きましょう。

食生活で気をつけること

酸の多い飲食物は、だらだらと摂取せず、摂取後は水やお茶でお口をゆすぎましょう。酸で歯が柔らかくなっているため、食後すぐの歯みがきは避け、30分〜1時間ほど時間を空けるのが理想です。

知覚過敏用歯磨き粉の選び方と使い方

「知覚過敏用」の歯磨き粉には、しみる痛みを和らげる有効成分が含まれています。

硝酸カリウムと乳酸アルミニウムの働き

  • 硝酸カリウム:神経の周りにイオンのバリアを作り、刺激の伝達を防ぎます。
  • 乳酸アルミニウム:象牙細管の入り口を封鎖し、刺激を物理的にブロックします。

これらの成分は継続使用で効果を発揮します。また、歯を削るリスクを減らすため、研磨剤の配合が少ない、あるいは無配合のものを選ぶと良いでしょう。

歯科医院ではどんな治療をするの?最新アプローチ

セルフケアで改善しない場合は、歯科医院に相談しましょう。

薬を塗って刺激をブロック

歯科医院では、市販品より高濃度の薬剤を歯の表面に塗布します。象牙細管を封鎖し、即効性が期待できます。

コーティングして歯を守る

歯の根元のすり減りなどが大きい場合、歯科用レジン(プラスチック)で露出部分を覆い、物理的に刺激を遮断します。見た目も自然で、多くは保険適用です。

最新治療「フォースデンチン」とは?

国内で開発された新しい知覚過敏抑制材料「フォースデンチン」は、歯のエナメル質と同じ「リン酸カルシウム」で象牙細管を封鎖します。歯と同じ成分で蓋をすることで、従来よりも効果の持続性が高いと期待されています。

どうしても痛みが治まらない場合は

様々な治療を試しても痛みが治まらない場合、最終手段として歯の神経を取り除く治療(抜髄)もあります。しかし、神経を抜いた歯はもろくなるため、できる限り神経は残すべきだと考えています。

まとめ:歯は“老後の資産”。早めのケアで未来を変えましょう

しみる痛みを放置すると、歯みがきが疎かになり、むし歯や歯周病のリスクを高めます。また、食事を楽しめなくなるなど、生活の質(QOL)の低下にもつながります。

私の恩師の「患者さんの人生を診なさい」という言葉を胸に、私は歯の治療を通じて、患者さんの人生を豊かにするお手伝いをしたいと考えています。そのためには「歯は“老後の資産”である」という意識を早くから持っていただくことが大切です。

若いうちからの適切なケアが、10年後、20年後の健康を左右します。この記事を機にご自身の歯と向き合い、気になる症状があれば、ぜひお近くの歯科医院に相談してみてください。


参考文献